• スイススチール:40年間使用のフックコンベアシステムを、最新のパレット輸送ロジスティックスへリプレース

    パレットの世界を完全自動化

スイス有数の鉄鋼メーカーであるスイススチールは、コイル輸送の分野におけるデジタル化を段階的に進めており、約40年間使用してきたフックコンベア システムを、最新のパレット輸送ロジスティックスに置き換えています。PSIの既存のトレーサビリティシステムが新しい枠組みに採用され、パレットの世界のデジタル化に成功しています。シュモルツ&ビッケンバッハ(Schmolz & Bickenbach)グループ傘下のスイススチールは、鉄鋼業界におけるインダストリー4.0の進化的に特徴づける良い例です。

鉄鋼生産において、インダストリー4.0と関連したデジタル化は、ただ単に新規プラントに限定される課題ではありません。また、鉄鋼業界における通常の設備投資サイクルにおいて、全ての新技術を直ちに導入することは不可能です。企業は継続的なデジタル化の恩恵を、ステップ バイ ステップで導入するための賢明な戦略を取る必要があります。様々な段階で、製造プロセスの具体的な分野を特定して革新することが重要です。スイススチールは、スイスのエメンブリュッケ製鉄所において、正にそのような投資を行っています。スイススチールは特殊鋼メーカーとして、様々なサイズの高品質ワイヤを含む線材製品を、2ラインで製造しています。ワイヤは圧延されるとコイリングされますが、その後の工程としては、高温のコイルの冷却、サンプリング、秤量、圧縮と結束があります。過去40年間、この工程はフックコンベア システムを用いて実施されてきました。製品輸送に介入できる余地は、極めて少ないのが現状でした。それに対して、新しいパレット レールでは、3つのバッファ ラインが用意されていて、1つの製品が他の製品を追い越すことができます。これは、1つの製品またはオーダー全体について優先順位を付けることができる等、いくつかの利点があります。
新しい輸送システムおよび最新の集束機への設備投資により、消費エネルギーの著しい削減と輸送信頼性の向上が達成されました。スイススチールは、将来的に予想される、より高いコイル重量に対する需要、そして先進的なお客様からの要求に対しても応えることができます。また、パレットハンドリング作業の完全な自動化は、工場内での安全な作業環境の実現に寄与しています。

トレーサビリティが鍵

これまでもPSIのトレーサビリティシステムにより、全製品の動きの切れ目のない記録は確保されてきました。しかし、新しいシステムにおいてトレーサビリティの使命は、もっと重要になっています。柔軟性が増すということは、逆に、硬直化したマテリアルフローを緩和することに繋がります。パレットの「森」の中で、「私の製品はどこだ?」というきわめて重要な質問が出てきます。人間のオペレータが全体像を逐一把握することは、もはや不可能なことになります。

導入されるオートメーションシステムでは、製品がラインの交差ポイントで混同されないよう、また製品重量が間違って分配されないように、更に緻密に連動するものでなければなりません。実際には、関わる複数のシステムがデータの同期性を確認するチェックポイントが設定されています。基本オートメーションシステムがパレット上に製品があるかどうか確認する一方、PSIのトレーサビリティシステムはそれがどの製品であるかを確認します。

開胸手術

このようなシステムをホワイトボード上で導入設計することと、実際の作業現場において導入実施することには、天地程の開きがあります。開胸手術の前に、前もって外科医が綿密な計画を立て練習するのと同様、スイススチールにおいても十分に練られた導入プラン、及び機能検証シナリオが必要でした。
全ての関係グループの、タイムリーで首尾一貫したコミュニケーションは、極めて重要です。機能検証フェーズでは、トライアンドエラーなしに達成できることはありません。その都度、頓挫や問題に対処するには、経験と信頼が必要です。
純粋に実務的な観点から述べると、テスト環境で特定の1つの信号系統を動作させ、システムが正しく機能することを証明する単体テストは、最初のステップになりますが、実際の作業環境で試運転を行いながらいくつかの信号系統を同時に検証する総合テストでは全く意味合いが異なります。この時に、残されていた問題が明らかになり、システムが単体では順調に機能していた喜びが、にわかにストレスに変わってしまいます。
スイススチールにおいて、製品があるポイントから他のポイントへ、何の遅延もなく輸送されるという「歓喜」が一旦は訪れました。しかしながら、これは見かけ上のことであり、製品がパレット レールからフックコンベア システムに搬送される際の信号遅延が、現実に起きていました。にもかかわらず製品が搬送ポイントを通過した後、システム上の製品はパレット レールからフックコンベア システムへ移動してしまったのです。このようなことを含め、プリミティブな現象は、機能検証の過程で迅速に解決されていきます。

人間はまだ必要なのでしょうか?

将来の工場において人間がどのような役割を果たすか、または果たすべきかについて、多くの仮説があったことが、インダストリー4.0の背景にはあります。学術的なレベルでは、人工知能またはアルゴリズムにより管理された工場は、今日の複雑な社会構造に置き換わる、または凌駕さえすることができるのではないか、という準哲学的な議論が成されています。
ある結論を導いている、実務的な例もあります。スイススチールの場合は、決して無人の工場を構築することを目指していませんが、同社は特定の分野においてデジタル化と先端的な自動化に、熱心な投資を行ってきました。しかしながら、オペレータは、このようなオートメーションシステム以上に、もっと重要な位置付けになっています。非常事態が生じたとき、オペレータはすぐさま修正をかけなければなりません。実際の物理パレットが、システム上の追跡位置から逸脱し、線材コイルがオフライン上に排出されてしまったときなどです。
このような事態が発生した場合、オペレータは、全システムにおいて修正をかける権限が必要となります。本質的には、オペレータは監督者として格上げされ、システムが自動化されたルーティンから逸脱していないかどうか、目を光らせるようになります。言い換えれば、たとえ作業内容が変化すれど、鉄鋼生産は将来的にも、人間の介在無しで生産を遂行することは不可能であり続けるでしょう。

PSI: 今回の工場の大幅な更新について、主要な理由は何だったのでしょうか?

ヌスバウム博士:輸送システムのほぼ全面的な設備更新は、市場がコイル生産量の増大を求めていることから必須要件でした。スイススチールの圧延分野の戦略的成長の一環として、このような将来需要への対応性を担保することは必要な第一ステップです。市場の要求に加えて、単純に約40年たった古いシステムを刷新し、圧延プロセスの革新的な自動化環境へ変貌を遂げる必要があったことも事実です。

PSI: 複雑さを予想されましたか?また、どう準備されましたか?

ヌスバウム博士:もちろん、これは、我々にとって重要なプロジェクトであったし、今でもそうであることに間違いありません。我々および他の関連企業も、本プロジェクトに多大な資源を投入しています。しかしながら試運転のための余分なスペースもなく、これまでにないタイトなスケジュールのもと、建設と操業を同時進行で進めなければならなかったため、新設のプロジェクトと比較して、複雑性が増していました。また、機能検証のフェーズでも、代替用の生産製造設備がありませんでした。当初、必ずしも全てのプロジェクト関係者が、当課題を十分に認識せず、複雑性は過小評価されていました。将来は、進捗をもっと細かくモニターして、より優れた危機管理を確実にする手法をとらなければならないと思います。

PSI: このようなプロジェクトを行う場合、需要家と供給側との間に、特別な関係が必要ですか?

ヌスバウム博士:関係者間でコミュニケーションを厭わないことと、迅速で確実な対応は、必須条件です。お客様の要求を深く理解するとともに、プロジェクト パートナーが常に企業家精神をもって行動するならば、それが特別な関係になると思います。更に関係者の相性が良好ならば、言うことはありません。結局のところ、プロジェクトを成功に導くのは人です。そして、プロジェクトに関わる全員が、プロジェクト自体が目的ではないことを理解しなければなりません。最終的に、我々には、お客様に対する責任があり、お客様に付加価値を提供したいと考えているのです。

ゲオルク・ヌスバウム(Georg Nussbaum)工学博士へのインタビュー

(スイススチールの圧延工場所長)

なぜ、デジタル化なのでしょうか?

デジタル化への投資は付加価値を得られるものでなければなりませんし、単に新技術のために行われるものではありません。スイススチールの場合、単に高品質の製品を製造するだけでは充分ではありません。また、製品の品質は、検証可能である必要があります。これは、常に特定製品の位置情報と、それを保証するための下位制御システム層からのプロセスデータを把握することが何より重要であることを意味しています。これは、長期に渡って作業工程で品質を保証し、完成時にレポート化するための唯一の方法論です。このようなことが、マテリアルフローから得られる柔軟性やエネルギー消費の節減とともに、デジタル化のメリットの明確な証明になります。インダストリー4.0は、必ずしも革命を意味する必要はなく、スイススチールの場合は、進化であることを証明しています。