本番稼働中のシステムを無停止アップグレードは可能か?

2019年7月30日 - テクノロジーインダストリー4.0

METEC 2019のPSIバスの前で、PSIメタルズ社CEOのトマス・キネ(ThomasQuinet)、PSIメタルズ社のマーケティング部門長であるラファエル・ビンダー(RaffaelBinder)、およびPSI SoftwareAGのCEOであるハラルド・シュリンプ(Dr.Harald Schrimpf)

生産管理システム(MES)は、金属生産プロセスを最適化する上で重要な要素であることは誰もが認めるところです。ただし、この種の実装作業には多くの工数が必要であり、長期間にわたって安定稼働をすることが求められます。グローバルの金属業界でも「実行中のシステム変更することはほぼ不可能」という通説は、徐々に覆されています。この度PSIメタルズ社はデュッセルドルフで開催された第10回国際冶金見本市であるMETEC2019で、PSImetalsサービスプラットフォーム(SP)をローンチいたしました。これにより、段階的な進化と革新の両方が可能になり、MESへのこれまでのシステム資産が保全されると同時に、デジタルトランスフォーメーションへのプロセスを加速させます。

今日、PSIメタルズ社が手掛けたMESソフトウェアは、包括的な金属生産者向け生産管理ソリューションとして多くのお客様に使用されています。同時に、急速に変化している経営環境において、システムを環境変化に適応させることは容易ではありません。

全世界で通常、MESの導入プロジェクトは、10〜15年に一度の頻度で実施される巨大プロジェクトです。多くの場合、ラインの新設、保守が終了したハードウェアの技術的刷新、企業間の合併買収後の経営戦略や路線の変更をドライバーとして推進されます。このような状況におけるシステム導入作業は、多くの複雑な作業を経るため、長期間にわたって安定稼働を維持することが一義的な目標であり、システムへの変更は最小限に留められます。

変化のドライバー(背景)

これまでの鉄鋼、非鉄業界において「実行中のシステム変更することはほぼ不可能」という通説は、徐々に覆されています。金属生産者にとって、市場環境は急速に変化しており、多くの課題に直面しています。

  • 新興国金属生産者による価格競争の激化、生産コスト節減要求、新興国における技術革新と品質の改善
  • 自動車業界のような顧客からは、更に一歩踏み込んだ製品の品質、レポート、納期の短縮、ロットサイズの縮小など、マスカスタマイゼーションへの対応力が試されています

同時に、技術の変化も加速しています。 「インダストリー4.0」という包括的な用語の下で、ビッグデータ分析、機械学習と人工知能、自律エージェント、拡張現実サポートシステムなどの新しいテクノロジーが浸透しつつあり、金属生産者はこれらの動向に目を光らせる必要があります。

このデジタルトランスフォーメーション(DX)は、単一のプロジェクトでは達成できない長旅のようなもので、長期的な取り組みが求められます。

既存のテクノロジー、ハードウェア、およびソフトウェアは、陳腐化の度合いが高まっており、保守切れリスクをはらんでいます。特定の設備機器ベンダーや、ソフトウェアベンダーに料金体系の変更により、保守費用の増加は企業にとっては大きな足かせです。金属産業におけるイノベーションを推進したいところですが、これらの課題に適応な答えを見つけるのは容易ではありません。

どんな旅でも常に最初の一歩から始まります。これらの課題に対応し、財源を確保し、将来のイノベーションの基盤を形成するための打ち手が必要です。進化的に統合されたMESのアーキテクチャは、デジタルトランスフォーメーションへの道のりにおける重要なマイルストーンです。

このビデオで、デジタルトランスフォーメーションが重要である理由と、それを実現するための弊社での取り組みをご覧ください。

進化的システムアーキテクチャ

MESは、生産のバリューチェーン全体をカバーし、データを統合された一貫性のあるファクトリモデル(生産のデジタルツイン)に保存する高度に統合されたソリューションに進化しました。この緊密な統合により、システムアーキテクチャはモノリシック(単一的な)中央集権型のMESモデルに帰結しています。この種のアーキテクチャには、ある課題が含まれます。

  • インタフェースの相互依存性がネックとなり、システムコンポーネントの変更には大きな苦労が付き物です
  • モノリシック型のアーキテクチャを、特定の環境(バージョン、ライセンス、ハードウェア)の変化に適応させることは困難であるか、ほぼ不可能です
  • このようなシステムは、エッジコンピューティングまたはクラウドでホストされるサービスと連携して使用するように設計されていません
PSImetalsのサービスプラットフォーム(SP)のイメージ

これらの課題に対処するために、PSIはPSImetalsサービスプラットフォーム(SP)をリリースしました。このプラットフォームは最新の技術的要素の集合でもあり、これまでの既存のPSIメタルズ社の製品を既に導入済みのお客様、ならびにこれからMESの導入を検討されているお客様のあらゆる要件を充足するだけの広範囲な接続性と、将来のソフトウェア基盤としての柔軟なアーキテクチャを備えています。

サービスプラットフォーム(SP)は、以下の設計思想に基づいています

  • 機能領域(追跡、品質、ロジスティクス)に対する明確な責任を持つモジュラーサービスアーキテクチャ
  • バス型のアーキテクチャによる(PSIbus)を介した通信
  • ビジネスプロセスモデリング(BPM)エンジンによるサービスのオーケストレーション。これにより、ユーザーは本番環境の変更に応じてMESの業務フローを自由に定義、変更することができます。
  • 新しいプラットフォームの中心にあるすべてのデータのストレージ:新たに設計されたPSImetals Factory Modelでは、ドメインモデルの採用により、オブジェクトを動的に組み合わせて、オペレーターに関心のある領域の包括的な概観を構成することが可能

SPによるメリット

このアーキテクチャにより、金属生産者はMESを実装する際に、今までにない高度な柔軟性を得ることができます。ユーザーは生産現場の変化に即して、業務モデルを迅速かつ容易に変更することができます。 PSIbusを介して通信するサービスコンポーネントは、新しいBPMエンジンにより容易に業務フローの中に取り込みオーケストレーションすることが可能。

サービスのモジュール性により、無停止でサービスコンポーネントの部分導入やアップグレードが可能。サービス化されたアプリはシステム更新時のインスタンスは、異なるバージョンを平行稼働させたり、起動や停止をコントロールすることが容易です。これからはアップグレードの際にラインを停止する必要はありません。

"機械学習や人工知能(AI)などの新しいサービスは、この度モダンAPIに完全対応したPSIbusに基づき容易に接続することが可能。新サービスが使用する数理計算言語やランタイム環境の違いはもはや問題ではありません。例えばAPIがPythonまたはR言語のどちらで記述されていても、PSImetalsサービスプラットフォーム(SP)なら即時接続することが可能。SPの利点は、これらの先進的な人工知能によるサービスモデルを順次追加し、既存の業務フローに新たなインテリジェンスを加えると同時に、既存のMESモデルはそのまま利用し続けることが可能な点です。既存のファクトリーモデルの同一性を保持しながら、生産のデジタルツインはどんどん進化していきます。"

PSImetalsサービスプラットフォームとPSIbusを補完することにより、既存のMESは簡単にサービスになり、他の付加価値サービスは、既存のMESからの明確なインターフェイスとデータからすぐに恩恵を受けることができます。

このビデオで、PSImetalsコンサルタントのJeremyCoppeがサービスアーキテクチャについて説明しています。

ユースケース1:最新の注文情報

自動車の顧客にその生産状況に関する洞察を提供したいと考えている金属生産者の事例をご紹介します。ここで言う洞察とは、生産注文の進度状況、納期、潜在的な遅延などを指します。顧客には注文に関する情報のみを開示する必要があるため、実際のところ大変デリケートな問題です。情報開示にも明確なアクセス制限が存在するため、MESへの情報をそのまま開示することは適切ではありません。

サービスプラットフォームを使用すると、PSIbusを介してMESから必要な注文情報が提供される新サービス(PSImetals Order Tracker)を導入することができます。 PSImetals Order Trackerは、外部のお客様が注文情報に安全にアクセスできるようにするためのツールです。モバイルアプリケーションでも利用できます。

ユースケース2:品質予測による情報に基づく意思決定

2番目のユースケースは、新しい技術的可能性を使用するためのサービスの追加です。圧延後、熱間圧延機はプロセス評価に向けた一歩を踏み出します。統計的工程管理(SPC)管理図でサポートされている圧延からのデータに基づいて、経験豊富なオペレーターがコイルのさらなる検査が必要かどうかを判断します。

人工知能モデルと機械学習技術を使用して、履歴データでトレーニングされた新しいサービスを構築できるため、実行中の本番環境で品質予測を行い、情報に基づいた決定のための追加情報をオペレーターに提供できます。

PSImetalsサービスプラットフォームとBPMエンジンオーケストレーションの助けを借りて、この新しいサービスはPSIbusを介して接続し、圧延機の生産追跡ビジネスプロセス内で呼び出すことができます。(BPMエンジンとは、各サービスコンポーネントをオーケストレーションするための、ワークフローを描画し、ワークフローを実装するためのツールです。)

印象:METEC 2019

さらに、この度のPSIbusのマーケテイングプレゼンテーションとして、METEC 2019では実際に走行可能なフォルクスワーゲン・トランスポルターが展示されました。この通称ワーゲンバスは自分好みにカスタマイズする愛好家が多いことでも知られています。このワーゲンバスは、金属生産のデジタル化に向けたPSIメタルズ社の取り組みを表しています。社内にはこれまでにプレゼンテーションした、機械学習、サービス指向アーキテクチャ、人工知能、バーチャルリアリティなどの数々のイノベーションをプレゼンテーションするための設備が整っています。

METEC2019のインプレッション

PSImetals フューチャーラボディレクター、ハイコウルフ(Heiko Wolf)

ハイコ氏は、過去12年間、PSIメタルズ社で鉄鋼およびアルミニウム業界向けのソフトウェアを開発してきました。 フューチャーラボプロジェクトの責任者として、彼はソフトウェアアーキテクチャ、継続的デリバリー、アジャイル手法、そしてそれらすべてが金属業界にどのように適合するかについて提言しています。

+49 30 2801-1863
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